植物妖異考

椿木生人手

〔見聞雜記〕御勘定吉川榮佐衛門支配所、上州山田郡の内、龍舞村名主隱居庭に、文化二年五月十日比、圖ノ如く椿木に人手生ず。其色白く、六七才位の小兒の手の如く、厚さ手程にて爪は鳥の樣子少し有之、虫の巣か、又は朽木に出來候茸のやうにも見ヘ候よし、…

菜花爲蓮花

〔花史左編〕巻七 〔菜花〕熈寧中。李及之潤州に知らる。園中に菜花盛開す。悉く蓮花と成る、各花中に一仏座あり。形彫刻の如し。其の數計り莫し。曝乾して其の像依然。 西暦千五百六十八年 〔酉陽雜俎〕〔蔓青爲蓮〕務州僧、清簡家が園、蔓青*1忽ち變じて蓮…

檜葉椿

〔塵添埃嚢抄〕巻第十六 〔檜葉椿[ヒバツバキ]〕弘法大師の御出家、受學の樣如何、云云延喜二十一年辛。弘法大師の謐號あり、云云槇尾に御座[井マシ]し時、云云又檜葉を以て御手を摩淨して、便宜にありける椿の上に投け撃ちて、曰く我が宿願果して遂く可…

伐木出血

〔萬物怪異辯談〕巻八 老樹、巨木の中心に、空缺有て、木の液汁膏旨溜りて、濕熱に變じ、赤色と成るもの流出するを、血出たりと云し類もあり、予が知己語て、曰く我外祖の故宅に、大なる柳樹あり、其始を不知、老古木なり、其孫伐之、時に樹中より血流出と、…

核無ノ李

〔日光驛程見聞雑記〕天保癸卯多紀安長著 〔核無ノ李〕 粕壁より西へ、二里斗りあなた岩槻領の慈恩寺といふ寺の中に、七不測ありと傳え聞、(中略)坂東十二番目の札所なり、昔此所の池に毒蛇すみて、人を腦す大師來たり玉ひて、護摩を焚ひて、これを得脱せし…

はしがき

おのれはやく、からやまとのくさぐさのふみどものうちより。くさきのやまひにかゝはりたるふるものどもをぬきいでゝ。いさゝかそのことのゆゑよしをわきまえたゞし。植物病理知新と名づけて。おのがおほえとし。かつはひとにもしめさむとおもひたちて。かれ…