伐木出血

〔萬物怪異辯談〕巻八
老樹、巨木の中心に、空缺有て、木の液汁膏旨溜りて、濕熱に變じ、赤色と成るもの流出するを、血出たりと云し類もあり、予が知己語て、曰く我外祖の故宅に、大なる柳樹あり、其始を不知、老古木なり、其孫伐之、時に樹中より血流出と、長崎何れの町の事なり。

大和本草記聞〕小野蘭山講説
〔ミヅユス〕漢名不知、京にてクマノミヅキと云、山中に多し、大木あり、葉山茱萸に同じ、對生す、冬葉落、此枝をきれば、日々水出沫の如し、後ち此沫赤色になり、血の如し、俗説に木より血出と云は、皆此木の事なり、木より水出により、水木と云。

〔會津領産物帳〕
〔ワカキ〕山に有木の高さ十二丈斗、木の色青黒し、葉の長二三寸にして圓なり、花の色白く野ニンジンの如く咲く、櫻の實の如く青き實なる、葉ある時は色青く、落葉の時より冬に至、木の色赤し、正月十四日に此木の枝に、團子をさす、此切口より、血膓の如きもの出づ、或はミヅブサとも云。

〔晉書〕
後漢、獻帝建安二十五年正月、魏武帝洛陽に在り、建始殿を起こし、濯龍樹を伐るところ、血出り、又徒梨を掘れば、根傷つきて赤き血出づ、帝之を惡み、遂に疾寝し、是月崩る、是歳魏文帝、黄初元年也、

濯龍樹、徒梨未だ考へず、木を伐て血出づるといふ事怪む可きが如くなれども、柳、齊敦果[エゴノキ]、水木、等より出づる血膓[チワタ]の如きものは、予度度之を目撃し、且顯微鏡を以て之を審査して一種の赤色新月菌が、切口より流出する樹液に寄生して、蕃殖せし者に他ならざることを確證し得たり。其の種は恐く空氣中に浮在する、 Fusarium roseum Link と稱するものならん。予は明治二十七年四月、日光山中に於て、柳の切口より血の如きもの流出するものを多く目撃したり、當時日清戰爭の際なりし故、日光山中より、彈藥製造用木炭として、直徑二寸以下の柳の細幹を、長さ二尺許りに切りて、多量に積み出せしため、溪流に沿ひし、柳の小木は大抵切り株となり、其の切口より血の如きもの噴出する状見事なるを遠方より見て、不思議に思ひしを記臆す、又農科大學構内にては年々水木齊敦果樹に發生するを目撃す、其の状第三十圖の如し。

写真はRKsiteのこばさんからお借りしましたよ。

妖怪DBからもいくつか拾ってみましたが、これらもそのうち当たってみたいと思いますよ。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1720218.shtml
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1720211.shtml
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/0690120.shtml
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1570031.shtml

特に、ミズキが血を吸うという伝説は興味深い。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1231137.shtml

また、血が出る松の木というのは、サビキンかもしれないと思っていますよ。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/0240085.shtml