十五夜さんのキノコ

ハチスタケ。
上記の原先生が発見されたキノコですよ。

兎の糞上から見いだされている菌で、写真のごとく長い柄をもつ子座を形成する変わった糞生菌ですよ。
1915年、原先生による報告が発記録とおもわれますよ。*1
このとき原は故郷の岐阜県川上村に病気療養のため一時帰郷中でしたよ。
どうやらSaccardoやSydowに標本を送っていた時期と一致しているようですよ。
この時点では未知種とはみなさず、「此菌ハ米國に發見セラレタル Poronia leporina E. et Ev. ニ相當スルモノヽ如シ。」と書いていますよ。
また形状が傘釘に似ることから「ヒメカサクギ」の和名を与えていますよ。
日本菌学会会報には晩年の原先生の論文が6編掲載されていますが、うち2編でこの菌について触れています。1958年には線画をおぎなって「ウサギノミミカキタケ」とし*2、1960年にはカメムシタケの異名であるミミカキタケとの混乱を避けるためハチスタケ(蓮茸)と改称します。
また新種と認めて Poronia jugoyasan Hara としましたよ。*3
種形容名のは斬新。すなわち「十五夜さん」で、ウサギにちなんだものとおもわれますが、外国の人には難解かもしれませんよ。
1976年には六十数年ぶりに本菌が採集され、培養に成功しました。またPodosordariaに移されています。*4

*1:Poronia属の発見」,植物学雑誌,345:301-302

*2:「ウサギの糞に生える菌2種」,日菌報,2(1):12

*3:「菌類雑録」,日菌報,9:15-16

*4:"Coprophilous Pyrenomycetes from Japan", 日菌報,17:248-261

ハチスタケと原摂祐


自分の中ではかなり有名な方なのですが、検索してもあまり出てこないのですこしだけ書いておきます。

原 摂祐 (1885-1962)
岐阜県恵那郡川上村生まれ。
植物病理学、菌学、昆虫学者。
多くの樹病病原菌(細菌を含む)、昆虫を記載、また昆虫寄生菌、とくに日本産Cordyceps属菌の研究においては先駆的な仕事をしたそうですよ。
1931年、日本菌類学会設立。
雑誌『菌類』を刊行。
南方熊楠と親交あり。
多数の往復書簡が発見されているようです。
著書に『樹病学各論』、『樹病学提要』、『実験樹木病害編』、『日本菌類目録』、『日本粘菌類目録』等多数。

ファーブル先生の観察

一方、ファーブル先生はキノコにたかるウジの観察をしていましたよ。
そこでAmanita属菌が彼らに嫌われていることを発見しますよ。
しかしここでは、毒菌だけでなく、食菌のセイヨウタマゴタケも嫌がっていることも指摘しますよ。
一筋縄にはいきません。

要するに人間にはうまかろうが猛毒だろうが、蛆はアマニト類なんかお断りと来る。ただこうらなめくじだけが時たまそれをかじる。何でそれを断るのか、その原因は我々には解らない。例えばてんぐたけには幼虫に致命的なアルカロイド*1があるから、と言ってみたところで始まらない。そんなら、毒は何もないたまごたけ*2が、有毒な奴同様、全く嫌われているのはどうだ。と訊ねたくなる。それでは、味がなく、食欲を刺激する調味が欠けているためだろうか。生のまま噛んだのでは、アマニト類には味覚をそそる何もないのは本当だ。


『完訳 ファーブル昆虫記(十)』 山田吉彦林達夫 訳 p.329

セイヨウタマゴタケの、ハエへの対抗手段はなんなのでしょう?

興味はつきません。

*1:18世紀半ばから知られていたムスカリンを指しているとおもわれますよ

*2:セイヨウタマゴタケ

農芸化学科ならではの一節

ムスカリンといふものをもってゐて
虫にも何にも食はれないことが
じつに、立派な徳性だらう

ベニテンは虫に食われない、というのが賢治の観察。
奥さんこれ、あたってるんでしょうか。
ムスカリンが虫よけになるというのも、いかにもありそうな話ですし。
実際、虫にもムスカリン受容体があるそうですよ。

虫とAmanita


宮澤賢治の『おい けとばすな』は、ベニテングタケのうつくしさをうたいあげた口語詩ですよ。
http://why.kenji.ne.jp/haruto3/1053oi.html
先日、この詩の下書き原稿をあさっていたら、こんなおもしろいのがでてきましたよ。

Royall T. Moore 1955. Index to the Helicosporae : Addenda . Mycologia, 49 : 580-587.

5新種を記載し、上に挙げた検索表を補完します。

Helicosporium pannosum (Berk. & Curt.) Moore, comb. nov.
Helicosporium Neesii Moore, sp. nov.
Helicomyces lilliputeus Moore, sp. nov.
Helicoma acrophalerium Moore, sp. nov.
Helicoma Isiola Moore, sp. nov.