はしがき

おのれはやく、からやまとのくさぐさのふみどものうちより。くさきのやまひにかゝはりたるふるものどもをぬきいでゝ。いさゝかそのことのゆゑよしをわきまえたゞし。植物病理知新と名づけて。おのがおほえとし。かつはひとにもしめさむとおもひたちて。かれこれかきあつめたる中に。植物妖異考といふ一巻ありしを。すぎしなつのころ柳田のぬしの見たまひて。我に得させよ。あづさにちりばめてむ。そのつひえは。われよきにはからふべしなど。すゝめられけれど。まだかたなりなりとて。うけがはざりしを。このごろまた。たらざるはあとよりかきたしておぎなひもしつべし。ひとわたりかきをへたらんには。はやくいださんこそよけれと。いともねもごろにそゝのかしたまひつれば、植物の妖異[カタナリ]の考えなるから、かきざまのかたなりなるもをかしからんなど。ひとりごちて。ぬしのすゝめにしたかふことゝはなりぬ。

    大正三年二月

都のかたほとりはらじゆくの里にすめる          

千秋樓主人しるす

「柳田のぬし」というのは柳田國男ですよ。
この「植物妖異考」の発行者にもなっていますよ。