蘑蝱と蘑菰
モンゴルの方たちにとって、キノコといえば"цагаан мθθг(白いキノコ)"、モウコシメジですよ。
ほかに"шар мθθг(黄色いキノコ)"、"хар мθθг(黒いキノコ)"もありますが一般的ではなく。
したがって単にキノコを意味する"мθθг(モーグ)が、モウコシメジを指す言葉としてよくつかわれていますよ。
少なくともモンゴル語のうちハルハ方言というのを使っている人たちの間では、「モーグ」は縮まって「モグ」となり、"г"の部分は無声化しているので実際には「モク」と聞こえますよ。
中国の「蘑蝱(mo-ku)」がキノコをあらわすことから、これと同語源であることは、ほぼ確実と思いますよ。
「モク」で思い出されるのが、大和本草の「蘑菰(モク)」ですよ奥さん。
大和本草に関しては白井光太郎の『考註大和本草』が有名ですが、とくに菌に関する部分の論考が今井*1、南方*2によってなされていますよ。
白井・今井は「蘑菰」をヒラタケ Pleurotus ostreatus (Jacq.:Fr.) Kummer に当てており、一般的な解釈となっていますよ。
しかしどうやら、「蘑菰」にヒラタケが当てられたのは、日本人独自の解釈によるもののようで。
熊楠の弁では、中国での「蘑菰」は ツマミタケ Lysurus mokusin (L.:Pers.) Fr.をあらわしていた可能性が示唆されていますよ。
種形容名の"mokusin"が、蘑菰蕈(モクシン)からきているとするものですよ。
明治廿九年頃、在英の日、久しく支那にいた傅道師で、本草に注意した人に、このモクシンてふ種名の本字を尋ねると、造作もなく、綱目所出の蘑菰蕈だと答へた。
ピンインまで同じ「蘑蝱」と「蘑菰」は、同語源かもしれないし、しばしば混同されていたのかもしれない、そう考えると夢が膨らみますよ奥さん。